この度天然砥石関係のご縁で包丁に触れる機会に恵まれましたので、お勧めさせていただきたいと思います。
武生特殊鋼材(株)の役員を輩すキリン刃物(株)創業者一族により、開発特許取得されたステンレス割り込み材は今では、広く普及しています。鋼の開発技術者であり、かつ経営者でもあります。
一般的ステンレスの18Cr 程度含まれるクロムが非常に鋼のカーボンを引っ張るため拡散脱炭してしまうので、鍛接線上に錆が集まったり鋼の脆化や硬さが失われたりと、実用とは程遠いものでした。
現会長の父はニッケル系のスクリーンで鋼を挟むことで、ステンレス側にカーボン移動の抑止に成功したのです。
雲水包丁の鋼は、日本鋼の白や青におけるさびるという特性をできるだけ抑えつつ、天然砥石当たりの良さと刃返りつけやすさ、切れは従来の日本鋼を踏襲すべく苦心の末に開発された鋼になります。
戻しの跡でもHRC60を超える秀逸な日立SKD12をベースに刃物鋼向けに開発されたユニークで特異な生まれの刃物鋼になります。
クロモリバナジウムと言えば、構造材・自転車フレーム・高力ボルト・金型・機会工具鋼を連想しがちですがもっと大きな可能性を秘めます。
<不銹性の落としどころ>
鉄にCrを添加していくと微量では青に見る特性が現れ良いのですが、10.5Cr まで至るとステンレスと定義されるようで、そこまで至ると鋼としての硬さは得られなくなります。
しかしながら、Crの度数と日本鋼的な鋼の特性の失われ方は直線的比例関係ではないことを見つけ出し、5以下の度数では僅かづつ失われてゆき、5を超えた度数からこの特性は落ち始めるということを突き留めました。
10.5Crほどの不銹鋼としての特性まではいたりませんが白や青に比べると飛躍的にその特性は伸びました。
錆びたとしても軽く磨くか拭き上げで取り去ることができ、かつ錆びたとしても黒っぽい酸化被膜になるので純なる炭素鋼である白のような深く穴の開く感じの錆はおこらず、黒変の美観はさておき不動態的な酸化被膜となり非常に使い勝手がよろしいのです。
白と青でも錆の様子が異なるのもCrの効果が大きいのです。
<日本鋼の特性との兼ね合い>
1C 5Crで、ステンレスと日本鋼の好ましい特性のあいの子を狙う組成で砥石当たりと切れは日本鋼に近いと評されつつ、かなりのさびにくさも得られます。
更に Mo(モリブデン)で割り込みでも深く焼き入れの入る焼き入れ性を伸ばし、
V(バナジウム)で細かい結晶粒とさらに硬い炭化物を形成するため耐摩耗性の向上にも役立ちます。
これらの微量特殊元素の効果をさらに引き出すために、工業所有権の鎚起鍛造処理をなします。
鍛造効果は、単に鋼材に圧力を加えることで現れるものではなく、叩き潰す槌を素早く引き上げることで得られるので、ローラー鍛造やプレス鍛造でなく、昔ながらのスプリングハンマーによる鍛造が最もその効果が得られるのです。
短時間で鋼材にかかる圧力変化を終える必要があるという事になるわけです。
更に、ピン状のハンマー形状を採用することは、多数の打撃と圧力変化痕を得ることに最適です。
ピンヒールで踏まれるととても痛い。。これを無数に繰り返されるということが鋼材全体に及びます。
これが”ステンレスの日本刀とも称すべき本格派の包丁です。”と記される所以です。
鋼・脱炭防止スクリーン・ステンレス地金の鍛接線をご覧ください。良く鍛錬され、二本と同じもののない揺らぎ刃紋を呈します。
現在開発された微量金属元素の恩恵を最大限に引き出すには今なお古典的な鍛錬工程が最も効果的であり、鍛錬効果を相乗的に引き上げる効果を為すのです。
なにより、天然砥石当たりと永切れも素晴らしい点もお勧めです。
<柄と仕上研ぎについて>
柄は強化木パッカ柄素材ですが、食洗器に堪えうる樹脂バインド(含侵固着)です。
従来の白化現象は単にポリアセタールバインドで、温水で連鎖分解が起こりやすいためでした。
新品の強化木柄がホルマリン臭いのも旧来のポリアセタール単体のバインドである可能性濃く、使用において白化の懸念が否めません。
一度白化すれば粉吹きや膨れなどの劣化が止まらないのもこの連鎖分解によるものですが、雲水では解決済です。
中子もツバもステンですから、錆びて柄を押し上げて割ることもありませんから、定期的に研ぎさえいただければ使い心地よろしく永くお役立ていただけるものと思います。
ツバ付きは、バフ仕上の後小刃つけ。
普及型は、切り刃鎬のブラストショットと小刃つけ。
小刃はかつてのように狭く、切れに振ってますので、食材をこじたり冷凍やカボチャなど切ったりしないよう願います。
鋼種[steel materials]: 武生特殊鋼 1C 5Cr Mo V (日立SKD12に近い)
地金[laminated irons]: ステンレス 拡散脱炭防止スクリーン貼り両側で4層
厚み[thickness]: 2.0mm前後